糖尿病の食事療法の目的は、血糖値の上昇を抑えることで糖尿病特有の合併症(網膜症や腎障害で代表される細小血管障害)の発症を防止し、QOL(quality of life)を保ちながら、長寿を全うすることにあります。現在の糖尿病の食事療法は、総エネルギー量を少なくし血糖値のコントロールを最重点にしています。食事療法により血糖値が低下することはよく知られていて、余分なエネルギーを摂取しないようにすることは、糖尿病治療の基本です。血糖値が低下すれば細小血管障害の発症率が低下します。しかし、血糖値を低くするためのエネルギー制限とバランスのとれた栄養素を摂取することは相反する場合があります。このため、糖尿病の食事療法は難しく、多くの問題点があります。以下に主要な問題点を示します。
1.一般的に認められる最大の害は、カロリー制限により、“腹いっぱい食べられない。”“自分の好きなものが十分食べられない。”“いつも食事のカロリーのことを気にしなければならない”といった精神的な面への影響です。実際、多くの患者は正常範囲の血糖値を保って長生きするより、満足できる生活を希望しています。特に、中高年者の場合、今までの食生活の習慣を変えることに強い抵抗があります。栄養指導をする場合、各個人の今までの食事パターンをよく理解し、時間をかけて説得する必要があり、一律に糖尿病の理想とされる食事を押しつけてはかえって血糖値のコントロールはできません。
2.インスリン注射や、経口糖尿病薬を使用している患者では、食事の時間が遅れたり、食事の量が少ない時には、低血糖を生じることがあります。動悸,冷汗,悪心や軽い意識障害等の低血糖症状がみられたら早急に糖分をとる等の症状の進行を防ぐことをしなければなりません。
3.日本での糖尿病食では、総エネルギーの15〜20%をたんぱく質、60%を糖質、残りの20〜25%を脂質で与えるのがよいとされています。脂肪摂取量を低くしてあるのは、同じエネルギーでも、脂肪の含有量が多いと肥満を生じやすいためです。
4.糖尿病合併症の1つである腎不全の進展が、食事性たんぱく質量の減量により遅くなります。どのくらいの量のたんぱく質の制限をどの時点で行えばよいのか、米国糖尿病学会の最近の勧告では、尿たんぱくがテステープで陽性の段階で、行うべきとしています。その時のたんぱく質摂取量は、0.8g/kg/日で、食事の制限がより厳しくなります。たんぱく質の量が少なくなると、たんぱく質に多く含まれている鉄分、亜鉛などのミネラルや、ビタミンA、BやDが、不足気味になるので注意が必要です。
5.糖尿病患者の一部に、マグネシウムや、亜鉛の不足を生じます。カロリー制限を厳しくする場合、これらのミネラル摂取不足に気をつける必要があります。マグネシウムは、穀類(玄米、小麦)、豆類(大豆)、緑黄色野菜(ほうれん草)に多く含まれ、亜鉛は肉、卵、及び米、パンなどの主食に多く含まれています。